遺言書を作成しておいた方がよい人ってどんな人ですか?

遺言書を残しておいた方がよい方は以下の通りです。

 

●相続の割合を自分の希望通り指定したい

 

●法で決められている相続人以外の人に財産を譲りたい

 

●相続財産の一部または全部を寄付したい

 

●再婚をしていて親の違う子供がいる

 

●親が再婚をしていて実の親の違う兄弟がいる

 

●認知症などで判断能力に不安のある人や未成年者が相続人の中にいる

 

●行方がわからない人がいる

 

●相続人の中に国外に住んでいる人がいる

 

●相続人の数が多い

 

●土地や建物ばかりで現金があまりない

 

●個人事業や農業経営など事業を承継させたい

 

それではひとつひとつ見ていきましょう

 

 

 

 

相続の割合を自分の希望通り指定したい

遺言書を作成しておかないと、相続の際には、法定相続分の通りに遺産を分配するか、遺産分割協議によって相続人全員の同意によって遺産の分配を決めるという選択になります。

 

遺産の分配について自分なりの考えがあって、それをしっかり実現したいということであれば、その遺産分配の方法を記した遺言書を作成しておく必要があります。

 

その際には、遺留分への配慮や工夫、遺言執行者の指名をするべきか否かなど、専門的知識が必要になってくることが多いので、必要に応じて専門家のサポートを受けることをお勧めします。

 

親が再婚をしていて実の親の違う兄弟がいる

 

これは例えば、母が再婚をして血縁関係のない父がいて、その父と養子縁組をしている場合です。

 

そうすると、父の連れ子で血縁関係のない兄弟姉妹にも相続権が発生することがあります。

 

本人の親がお亡くなりになっていて、本人にも子供がいない場合です。

 

血縁関係のない父と養子縁組をしていることはしっていたけど、自分が亡くなった後に、その子供に自分の遺産が引き継がれるとは思ってもいなかったと驚かれる方がよくいらっしゃいます。

 

血縁関係のない兄弟姉妹とはまったく関係がなく、これからも自分が亡くなってからも関わり合いになることは避けたいから、相続はさせたくないという方に関しては、2つの方法があります。

 

ひとつは、遺言書を作成して、他の遺贈先を指定しておくということです。他に身寄りのない方の場合は、お世話になった方や希望する寄付先を指定される場合が多いです。

 

もうひとつは、死後離縁の手続きをするということです。血縁関係のない父との養子縁組の関係が解消されれば、その子供との兄弟姉妹関係も解消されることになるので、相続権も発生しなくなります。

 

 

法で決められている相続人以外の人に財産を譲りたい

 

民法では、相続人になる人や順位、相続分などが定められています。

 

それに則らずに遺産を分配する人を指定したい時は、遺言書を残しておく必要があります。

 

相続人以外の人へ遺産を譲ることを「相続」ではなく「遺贈」といいます。

 

また、相続人以外で遺産を譲り受ける人を「相続人」ではなく「受遺者」と呼びます。

 

民法では、相続人に対して最低限分配しなければいけない「遺留分」が定められており、それを逸脱すると、遺留分を侵害された相続人は、それ以外の相続人や受遺者に遺留分を請求することができます。

 

せっかく自分の想いを伝えるために相続人以外の方へ遺贈をしたのに、遺留分に配慮しなかったばかリに、かえって迷惑をかけてしまうことを避けるためにも、隙のない万全を期した遺言書を作成することをお勧めします。必要に応じて専門家のサポートを受けることをお勧めします。

相続財産の一部または全部を寄付したい

この場合も、法で定められている相続人以外に財産を譲ることになりますので、「相続」ではなく「遺贈」をするということになり、遺言書で寄付先を指定しておく必要があります。

 

遺贈をする対象が、人ではなく法人や機関になるということです。

 

寄付先は一つに絞っても構いませんし、複数指定することもできます。

 

寄付に関しては、以下のような相談をよく受けます。

 

・寄付先がユニセフや中央募金会などの有名な機関でない場合は、ご本人様がお亡くなりになられた時、存続しているだろうか

 

・社会に役立てたいという想いはあるのだけれど、どこに寄付をしたらよいかわからない

 

当事務所では、指定した寄付機関がなくなってしまった場合の予備的事項や寄付先についての資料をご提示するなどしてこのような相談に対応させていただいております。また、ご本人様の来歴をお聞きしていくうちに、ご本人様が力を入れてきたこと、人生において関心をおいてきたことが明確になり、寄付先が定まっていくということもよくあります。

 

遺言書の作成過程全体にいえることではありますが、寄付先の選定というのは、ただ社会に貢献したいという希望だけでなく、ご本人様の人生を振り返り、生きた証についてご本人様が自覚していくプロセスでもあるのだなと感慨深くなる瞬間でもあります。

 

 

 

再婚をしていて先妻の子と後妻の子がいる

ここでのポイントは、

 

・先妻の子や後妻の子とご本人様に血縁関係があるか

 

・血縁関係がなくても、先妻の子や後妻の子とご本人様の間で養子縁組がされているか否か

 

です。

 

血縁関係があったり、養子縁組をしていたりすると、その子どもには相続権があり、遺留分もあります。

 

現在、先妻や先妻の子とほとんど関係がないので、後妻や後妻の子に遺産を残したいと考えるのであれば、遺言書を作成して遺産の分配方法を示しておかなければなりません。

 

その場合も、先妻の子には遺留分がありますので、それに配慮した遺言書の作成が必要です。

 

遺言書を作成していないと、遺産分割協議を開いて、先妻の子と遺産分配について調整をしなくてはならなくなります。その手間や心理的ストレスを回避したい、先妻の子には遺留分だけ残してあとは後妻と後妻の子に遺産を多く残したいという希望がある場合は、遺言書を作成しておくべきでしょう。

認知症などで判断能力に不安のある人や未成年者が相続人の中にいる

認知症などで判断能力に不安のある人がいると相続手続きのために手間やコストがかかったり、遺産の分配が柔軟にできなくなる可能性があります。

 

遺言書がない場合の、相続手続きの一般的な流れとして、相続人全員が遺産分割協議を行い、協議が整えば遺産分割協議書に署名捺印をして全員が同意をする必要があります。

 

判断能力に不安のある人いると、同意が効力をなしません。つまりそのままでは遺産分割協議が成立しないということになり、相続手続きが停滞してしまいます。
その場合は、判断能力に不安のある方に、法定後見人をつけて、その後見人が代わりに遺産分割協議に参加してもらうという手続きを踏まなければなりません。
法定後見人が実際にサポートを開始できるまでには最低でも基本的に3-4か月ほどかかります。もちろん法定後見人をつけるための申立ての費用やそのあと被後見人がお亡くなりになるまでずっと定期的に後見人への報酬が発生することになります。遺産分割のためだけに法定後見人をつけるということはできず、後見人によるサポートはずっと続いていくことになるからです。

 

また、そうして選ばれた法定後見人は、原則として本人の利益保護のもとに、本人の法定相続分を主張します。

 

そうすると、相続人の間で、遺産の分配について、法定相続分にとらわれず柔軟に割り当てたいと同意がとれていたとしても、判断能力に不安のある方についた後見人は法定相続分を主張するので、思ったような遺産分配が実現できない可能性があるのです。

 

これまでの説明をまとめると以下の通りです。

 

・遺産分割協議の際に、判断能力に不安のある人がいると、法定後見人をつけなければならず、手間やコストがかかる。

 

・法定後見人は、原則として法定相続分を主張するので、柔軟な遺産分割ができなくなる恐れがある。

 

たとえば遺産の多くがひとつの不動産で、それを相続しなければいけない場合に、面倒を避けて特定の相続人に不動産を相続させたくても、後見人がついた相続人がいると、あくまで不動産についても法定相続分の持ち分を主張するということが起こりえます。

 

相続人の中に、認知症の方や判断能力に不安のある方、未成年者の方がいる場合は、遺言書の作成をおすすめします。

 

行方がわからない人がいる

上記の【認知症などで判断能力に不安のある人や未成年者が相続人の中にいる】の場合でも説明したように、相続手続きでは、相続人全員の同意が必要です。

 

そうすると、行方がわからない人が相続人の中にいる場合は、相続手続きが滞ることになります。

 

不在者財産管理人といって行方不明になっている人の代わりになってくれる人を選任する手続きを進めるか、失踪宣告を行って行方がわからない人を法的には故人として取り扱う手続きをするか、どちらにせよ手間やコストがかかってきます。

 

あらかじめ行方がわからないことがわかっている相続人がいる場合は、遺言書を作成しておけば、基本的には、遺言や財産開示の通知を相続人に通知をすればよいことになるので、遺言書を作成しなかった時よりも手続きがスムーズに進みます。

 

 

相続人の中に国外に住んでいる人がいる

相続人の中に国外に住んでいる方がいると、相続手続きが煩雑になります。

 

遺言がない相続手続きの際は、一般的に、遺産分割協議書の内容に対して相続人全員の同意が必要になります。

 

この同意は、遺産分割協議書への署名捺印と印鑑証明書の添付という形をとります。

 

ところが国外に居住している相続人に関しては、印鑑証明書が発行できません。

 

実印の登録は、日本国内に住民登録していないとできないからです。

 

代わりに、「署名証明(サイン証明)」と「在留証明」を居住している国の領事館や大使館で発効してもらう手続きが必要になります。

 

金融機関によっては、金融機関指定の相続手続きの書類に、大使館員や公証人の面前で署名し、署名(サイン)証明を受けるよう求めるところもあり、印鑑証明を添付する通常の手続きと比べて手間もコストもかかることになります。

 

遺言書を作成していれば、外国に在留する相続人の方に通知するだけでよいので、手続きがスムーズに進み、残された相続人の負担もとても軽くなります。

相続人の数が多い

 

相続手続きは迅速かつ確実に進めることが大切です。

 

なぜなら相続税の申告などには期限がありますし、時間がかかればかかるほど、相続トラブルが発生する可能性が高くなるからです。

 

遺言書が残されていない相続手続きでは、相続人の調査を相続開始の時に一から行わなければなりません。

 

そうなると、相続人の数が多い相続の場合、以下のような問題が発生します。

 

・相続人調査において集める戸籍が多く、調査に時間がかかる。相続人が手続きをする場合負担が大きくなる。

 

・遺産分割協議において相続人全員の同意を集めるのに手間がかかる。遺産分割協議がまとまらない可能性が高くなる。

 

たとえばご兄弟が多い方の場合は、そのご兄弟全員分の戸籍を収集しなければなりません。また、そのうちお亡くなりになられていて子どもがいる方に関しては、そのご子息にも相続権が発生しますので、その方たちの戸籍も収集しなければならなくなります。

 

そしてさらに問題なのは、たくさんいる相続人の全員から遺産分割について同意を得なければならないということです。

 

このケースにおいて、兄弟姉妹だけが相続人の場合、遺留分に配慮する必要はなくなりますので、遺言書によって、本人の希望するように遺産の分割方法を定めておけば、相続時には、その遺言の内容等を相続人に通知するだけでよく、手続きにおける負担も軽くなります。

 

何より相続手続きが迅速かつ確実に進み、遺言者から遺産の分配について意思表示があることにより、トラブルを避けることができます。

土地や建物ばかりで現金があまりない

財産が不動産と少しの預貯金の場合は、相続においてトラブルになる可能性があがります。

 

なぜなら建物や土地といった不動産はケーキのように切り分けることができないからです。

 

相続人が複数いる場合に、評価額が1500万円ほどの土地やその上に建っている建物と400万円ほどの預貯金の配分を決める際には、どうしても公平性が損なわれます。

 

不動産をすべて換価してしまえればよいかもしれませんが、一方の相続人がその建物内で居住しており、引き続きそこで生活をしたい場合には難しいでしょう。

 

しかし、遺言書が残されていない相続の場合、相続人は法定相続分を主張できますので、不動産を相続できなかった相続人がそれを主張すれば、不動産を相続した方は、法定相続分に足りない額を工面するしかなくなります。

 

現金で工面できないということであれば、やはり不動産を売却して現金に換えるしかなくなるでしょう。

 

とりわけ相続人間の仲がよろしくない場合は、トラブルになる可能性は大きくなります。

 

遺留分に配慮をして、遺言書を作成すれば、一方に不動産を残し、もう一方に預貯金を残すという遺産分配を指定することができます。

 

また、預貯金額が遺留分額に満たないときにも、遺言書作成の段階から遺留分対策を検討しておくことができます。

 

残された相続人間に無用なトラブルを生まないためにも遺言書の作成を考えた方がよいケースになります。

 

個人事業や農業経営など事業を承継させたい

 

個人事業や農業経営など、事業を承継させるときのポイントは、株式や農地などを分散させないということです。

 

そこで、遺言書において、株式や農地については、事業を承継させたい特定の相続人に集中させ、その他の財産に関しては他の相続人に相続させるなどの工夫が必要なります。

 

その場合は、事業債務の承継についても遺言書に記載しておくべき場合が多いですし、遺留分や代償金への配慮です。