以前作成した遺言を撤回したいのですが
【質問】
姪が私に何かあったときの面倒を見てくれるということで、それなら残った財産については、姪に残してあげたいと考え、全財産を姪に譲る遺言を作成しました。
けれども、その後色々事情があって姪と絶縁するに至り、以前作成した遺言書を破棄したいと思っております。遺言書は公証役場で作成しました。その際にもらった正本や謄本が貸金庫に保存してありますが、それを破棄すれば遺言を撤回したことになるのでしょうか。
【回答】
(遺言の撤回)
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
と民法にあるように、遺言は遺言者の生存中いつでも撤回が可能です。
ただし、上記の質問者様の作成した遺言書は公正証書遺言なので、正本や謄本を破棄しただけでは撤回したことにはなりません。
公正証書遺言の原本は公証役場で厳重に保管してあるからです。
※自筆証書遺言については破棄(例えば破り捨てるなど)すれば撤回したものとみなされます。
遺言書の作成に厳格な方式があったように、遺言書の撤回にも方式があります。
ここでは公正証書遺言の撤回方法について解説していきます。
公正証書遺言の撤回する方法は、以下の通り3つです。
@公正役場で撤回の手続きをする
A新しく遺言書を作り直す
B遺言書の内容に抵触する行為をする
ひとつずつ解説していきます。
公証役場で撤回の手続きをする
公正証書遺言を撤回するためには、公正証書遺言を作成したときと同じように証人を2人手配して、公証人に対して撤回する旨を申述します。
具体的には以下のような文言を記載した公正証書に本人と証人2人が署名捺印をします。
遺言者は、令和●●年●月●日、●●法務局所属公証人●●作成同年第●●号公正証書遺言による遺言者の遺言の全部を撤回する。
上の文例は全部撤回の場合ですが、同じ方法で一部撤回をすることもできます。
例えば以下の通りです。
遺言者は令和●●年●月●日、●●法務局所属公証人●●作成の令和●●年●●号の公正証書遺言中、第●●条の「遺言者は、□□銀行国分寺支店に預託してある預金債権の全部を、遺言者の妻〇〇(昭和〇年〇月〇日)に相続させる」とする部分を撤回し、「遺言者は、□□銀行国分寺支店に預託してある預金債権の全部を、遺言者の長男△△(昭和△年△月△日)に相続させる」と改める。
ただし、一部撤回の場合は、何を撤回し何を撤回しないのかが、あいまいになる場合もあるので、全部撤回をし改めて作り直すという形にした方がトラブルにならずに済むでしょう。
遺言を新しく作り直す
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
とあるように、新しい遺言書と古い遺言書の内容が抵触する場合は、抵触した部分については、新しい遺言書が効力を持つことになります。
ただ、この場合も、どの部分が抵触していてどの部分が抵触していないのかがあいまいになる場合があり、無用なトラブルにつながるので、新しい遺言書を作る際に、古い遺言書を撤回する旨を記載して、一から新しい遺言書を作り直すという形にした方が無難でしょう。
例えば新しい遺言の冒頭に以下のような文言を入れておいて、作り直しをします。
遺言者は、令和●年●月●日付け●●法務局所属公証人●●作成同年第●●号遺言公正証書による遺言を撤回し、あらためて以下のとおり遺言をする。
遺言書の内容に抵触する行為をする
先ほどあげた民法1023条の第2項に記されている通り、遺言書を作成した後に、それに抵触する行為があった場合は、その部分については遺言を撤回したものとみなされます。
例えば、遺言書で自宅を長男に相続させる旨の記載をした後で、自宅を売却した場合は、その部分の遺言は撤回したとみなされるということです。
少し話はそれますが、上記の遺言において、預貯金のすべてを次男に相続させる旨の記載をしたとして、自宅を売却したお金が預貯金に変わっていたとしたら、その自宅分の金額を受け取るのは次男ということになります。
撤回を撤回することはできるのか
最後に、一度した遺言の撤回を撤回することができるのかについて解説しておきます。
原則として一度撤回すればその撤回を撤回することはできません。
ただし、その撤回が錯誤や詐欺、脅迫によるものであった場合など例外的に撤回の撤回が認められた判例はあります。
コラム 公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回する
先に解説した公正証書遺言の撤回方法で、古い遺言書よりも新しい遺言書が効力を持つということを述べました。
であれば、公正証書遺言を作成した後に、新しい自筆証書遺言を作成した場合はどうなるかといえば、新しく作成した自筆証書遺言が効力を持つことになります。
ただし、自筆証書遺言で作り直す際には、以下のようなリスクがあります。
●自筆証書遺言の方式を満たしていない
●紛失により撤回が確認できない
ひとつずつ解説していきます。
自筆証書遺言の方式を満たしていない
遺言書には厳格な方式がありますが、公正証書遺言の場合、公証人が介在するので、その方式が満たされていないということはまずありえません。
一方自筆証書遺言は、専門家にサポートを依頼する場合は別として、その遺言が法律で決められた形式を満たしていないリスクがあります。
法律で定められた形式を満たしていない自筆証書遺言で新しく遺言を作りなおしたとしても、その遺言自体が無効ですので、古い遺言の効力は生きたままとなります。
紛失により撤回が確認できない
自筆証書遺言は、公証役場で原本が保管されないので、その遺言書が見つからないリスクがあります。
公正証書遺言で作り直すことが確実ですが、どうしても自筆証書遺言でということであれば、法務局の遺言書保管制度の利用も考えましょう。