負債がいくらあるのかわからないので相続放棄をしたいです。遺産分割協議で相続放棄の意思表示をすればよいのでしょうか。

相続放棄をしたい理由には様々なものがあります。

 

上記の質問者様のように、資産より債務が超過している場合あるいは、資産より債務が超過している可能性が高い場合が代表例です。

 

その他にも、農業や自営業を承継する後継者に相続分を集中させるため、被相続人から生前贈与を受けていた場合、相続人同士で関わり合いをもちたくないといった理由もよく聞かれます。

 

注意しなければならないのは、相続の放棄の仕方には、以下の通り、色々な方法があるということです。

 

@相続放棄

 

A相続分の放棄

 

B相続分の譲渡

 

C相続分なきことの証明書

 

@を相続放棄、A-Cを便宜上「事実上の相続放棄」と呼ぶことにします。

 

ひとつずつ見ていきましょう。

 

@相続放棄

 

相続人が、被相続人の資産も負債も、一切承継しないことを意思表示することです。

 

ただし、ただ意思表示をするだけでは成立せず、相続の開始を知ってから3か月以内に裁判所に相続放棄の申述をしなくてはいけません。

 

簡単に一般的な流れなど概要を載せておきます。

 

【手続きの流れ】

 

・財産調査を行い相続放棄をするかどうか判断する

 

・必要書類を準備する

 

・家庭裁判所へ必要書類を提出する(郵送可)

 

・家庭裁判所から照会書が届くので記入して返送する

 

・相続放棄が認められると、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届く

 

【必要書類】

 

・相続放棄申述書

 

・被相続人の住民票除票

 

・申述人の戸籍謄本(3か月以内)

 

・収入印紙(800円)

 

・切手(80円×4枚、10円×8枚)

 

・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本

 

【費用】

 

・印紙代

 

・郵便切手

 

・必要書類取得費

 

→大体3000円〜5000円程度

 

民法939条に規定されているように、相続放棄をすると、放棄した相続人は、その相続に関して最初から相続人にならなかったものとみなされます。

 

よって、資産も負債も承継しないのはもとより、それにより代襲相続が発生することもありませんので、相続を放棄した相続人の子供等に相続権が移ることもありません。

 

A相続分の放棄

 

相続財産に対する自分の相続分を放棄する意思表示のことです。

 

相続放棄との違いは以下の通りです。

 

・時期に制限がない=相続開始から3か月以内でなくていい

 

・方式も問われない=家庭裁判所に申述する必要がない

 

・相続債務についての負担を免れない

 

・相続分の放棄をした相続人の相続分については、他の相続人が元の相続分割合で取得する

 

→相続放棄と違って、法定相続人が代わることはない

 

相続分の放棄に方式はありませんが、、遺産分割協議において、口頭などで意思表示を行い、相続人全員の同意を得て、署名捺印する形や「相続分放棄証書」に印鑑登録証明書付きの署名押印をして書面で行われる方法があります。

 

注意しなければならないのは、相続放棄と違い、被相続人に債務がある場合、その支払いを免れないということです。

 

また、〈法定相続人が代わることがなく、相続分の放棄をした相続人の相続分については、他の相続人が元の相続分割合で取得する〉ということは、相続放棄をした場合と比べ、相続財産の配分方法がやや複雑になります。

 

【被相続人Aの相続配分計算例】

 

 

B相続分の譲渡

 

相続分を譲渡する相続人の相続分を他の相続人に譲渡することです。

 

遺産分割協議成立の前であれば、口頭で行ってもかまいません。また他の相続人への通知も必要ありません。

 

ただトラブル防止の観点からは、「相続分譲渡証書」に印鑑証明書付きの署名押印をして書面により譲渡することが望ましいでしょう。

 

注意する点は、相続分の譲渡においても、相続分の放棄と同じく、被相続人の債務の支払いを免れることはできないということです。

 

C相続分なきことの証明書

 

「特別受益証明書」あるいは「相続分不存在証明書」とも呼ばれます。

 

通常、特定の相続人について、他の相続人が、その相続人に相続分を超える特別受益があったとして作成される証明書ですが、特定の相続人に遺産を集中させるための便法としても用いられることがあります。

 

ただし、あくまで便法であることから、できうる限り上記した他の方法で相続放棄あるいは相続分の放棄をすることが望ましいと考えます。