相続債務調査の方法について教えてください
相続債務とは、簡単にいうと、亡くなった方が残した借金のことです。
そして、相続するとは、残された資産だけでなく、残された債務も相続するということになります。
もし残された借金が残された資産より多い場合は、相続人には多大な負担がのしかかることになります。
それを回避するための手段として、民法では相続放棄が認められています。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
ちなみに、第2項において、相続放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる、と定めてある通り、相続放棄をするにあたって、相続財産の調査をするかどうかは任意となります。
しかし、相続債務がどのくらいあるのかわからないというケースも少なくありません。
どのくらいあるかわからないからとりあえず相続放棄をしておくという形もありだと思いますが、債務を調査した上で相続するのか相続放棄するのか決めたいという方に関しては、相続債務の調査をする必要があります。
その場合、上記の民法で定められている通り、その相続人が相続の開始があったことを知った時から、3か月以内に相続放棄の申立てを行わなければなりません。
つまり、相続調査をする場合は、相続手続きにおいて一丁目一番地で取り組まなければいけない作業になるということです。
以下では、その方法や注意点を解説していきたいと思います。
相続債務調査の4つの方法
相続債務調査の方法は、以下の通り4つあげることができます。
@郵便物などの確認
A通帳の確認
B不動産の登記簿謄本の確認
C信用情報機関への問い合わせ
ひとつずつ見ていきましょう。
郵便物などの確認
被相続人が亡くなると借金の返済がストップするので、債権者から督促状などの郵便物が送られてくるはずです。
督促状を確認することで、借金の存在や借金の金額を把握することができます。
また、被相続人が借金の返済計画などを保管している場合がありますので、そのような書面がないか探してみるとよいでしょう。
通帳の確認
借金やローンは、毎月口座引き落としされるか、被相続人によって振り込みがされていた可能性があります。
通帳の記録を確認することで、返済履歴を把握することができるというわけです。
不動産の登記簿謄本の確認
土地や建物といった不動産については、登記簿謄本=全部事項証明書を取り寄せることによって、借金の担保として抵当権や根抵当権、質権が設定されているか否かを把握することができます。
信用情報機関への問い合わせ
郵便物や保管していた書類、通帳などを確認しても、借金があるのかないのかわからなかったという場合は、信用情報機関に債務記録の開示請求を行うという方法があります。
信用情報機関とは、個人が金融機関などから借金をした際に、その履歴を記録しておく組織です。
よく、融資やクレジットカード作成の申込をすると、金融機関やクレジットカード会社による審査がありますが、その審査の際に、信用情報機関に残されている記録を調べて、お金をしっかりと返してくれる見込みのある人なのかどうか=信用力があるかどうかを判断しているのです。
そして、この記録において、滞納の記録があったり、契約通りに返済や完済をしなかった(いわゆるブラックと呼ばれる事故情報)があったりすると、借り入れやクレジットカードの作成が難しくなるということになります。
日本には、以下の通り、3つの情報機関があります。
・CIC(株式会社シー・アイ・シー)
・JICC(株式会社日本信用情報機構)
・KSC(全国銀行個人信用情報センター)
それぞれに次のような特徴があります。
【CIC(株式会社シー・アイ・シー)】
●主な加盟企業:クレジット会社
●開示請求できる信用情報:クレジット会社のローン、キャッシングなどの信用情報
●開示請求可能者:配偶者あるいは子 ※郵送請求の場合、配偶者や子以外の法定相続人でも可
●開示請求方法:パソコン・スマホ・窓口・郵送
●必要書類
・開示請求者の本人確認書類
・法定相続人であることが分かる書類:戸籍謄本など
・被相続人が亡くなっていることが分かる書類:除籍謄本など
●手数料
・窓口請求:500円
・郵送請求:1000円
●開示にかかる期間:最短で即時
【JICC(日本信用情報機構)】
●主な加盟企業:消費者金融
●開示請求できる信用情報:消費者金融系の信用情報
●開示請求可能者:配偶者あるいは2親等以内の血族
※2親等以内の血族とは、子や孫、父母、祖父母、兄弟姉妹のことです。
●開示請求方法:スマホ・窓口・郵送
●必要書類
・開示請求者の本人確認書類
・法定相続人であることが分かる書類:戸籍謄本など
・被相続人が亡くなっていることが分かる書類:除籍謄本など
●手数料
・窓口請求:500円
・郵送請求:1000円
●開示にかかる期間:2週間〜1か月
【KSC(全国銀行個人信用情報センター)】
●主な加盟企業:銀行
●開示請求できる信用情報:銀行でのローンやキャッシングなどの信用情報
●開示請求可能者:法定相続人
●開示請求方法:郵送のみ
●必要書類
・開示請求者の本人確認書類
・法定相続人であることが分かる書類:戸籍謄本など
・被相続人が亡くなっていることが分かる書類:除籍謄本など
●手数料:1000円
●開示にかかる期間:1週間〜10日
なお、信用情報機関への開示請求は、法定相続人から委任をうけた行政書士や司法書士、弁護士などが代理することも可能です。
相続債務の調査における注意点
相続債務調査の注意点は以下の通りです。
●信用情報機関に開示請求をしても、被相続人のすべての債務が判明するわけではない
●相続放棄の申立ては、相続放棄をする相続人が相続の開始を知った時から3か月以内に行わなければならない
●相続放棄をする場合は、消費者金融からの返済請求があっても、支払ってはいけない
●相続放棄をさせないために、3か月経過をしてから請求してくる消費者金融もある
●信用情報機関への開示請求にかかる期間を多めに見積もっておく
ひとつずつ簡単に見ていきましょう
信用情報機関に開示請求をしても、被相続人のすべての債務が判明するわけではない
例えば、個人間の借金(親族や知人からの借金)・滞納家賃・滞納税金・ヤミ金からの借金に関しては、信用情報機関に開示請求をしてもわかりません。
これらを把握するには、遺品の中から督促状や借用書などの書面を探すしかありません。
相続放棄の申立ては、相続放棄をする相続人が相続の開始を知った時から3か月以内に行わなければならない
この3か月の期間のことを熟慮期間と呼びます。
単純承認するのか、相続放棄や限定承認をするのか、判断をする期間ということです。
※限定承認についてはあまり利用されないので割愛
ちなみに法に定めがある通り、熟慮期間の伸長を求めて家庭裁判所に申立てをすることができます。
詳しくは、熟慮期間の伸長の申立てについてをご参照ください。
また、3か月を過ぎてしまったからといって相続放棄をあきらめて、債務の返済請求に応じてしまう方がおりますが、3か月経過後も相続放棄が認められるケースもありますので、まずは、専門家に相談することをお勧めします。
相続放棄をする場合は、消費者金融からの返済請求があっても、支払ってはいけない
相続放棄は、相続財産の処分があったとみなされた場合は、認められない可能性があります。
仮に相続放棄をする前に、消費者金融からの返済請求があったので、返済に応じてしまった場合、単純承認=相続をする意思があるとみなされてしまいますので、相続放棄を考えている場合は、そのような返済請求に対して、安易に支払いをせず、回答を迫られた場合は、相続放棄を検討中である旨を伝えるようにしましょう。
相続放棄をさせないために、3か月経過をしてから請求してくる消費者金融もある
消費者金融などお金を貸している側=債権者側としても、相続放棄をされて債務を請求できなくなってしまうのは避けたいので、相続人が債務の存在に気付かずに3か月経過するのを待って返済請求をしてくるケースもあります。
そのような場合に、3か月経過してしまったからもう相続放棄ができないとあきらめて返済請求に応じてしまうケースがありますが、この場合も、すぐにあきらめてしまうのではなく、まずは専門家に相談することをお勧めします。
信用情報機関への開示請求にかかる期間を多めに見積もっておく
先に示した3つの信用情報機関への開示請求にかかる期間は大体の目安になります。
開示請求への準備の時間も含めると多めに見積もっておくことが肝心です。
スケジュールに無理がある場合は、早めに熟慮期間の伸長の申立ても考えましょう。